生涯現役を目指す、50歳からの「...

小西浩文氏(49歳)は、3度のがん手術から生還して、エベレスト無酸素登頂を果たした、異能のトップクライマーです。その彼が、50代からの「健康トレーニング法」を提唱しています。

 

これからが、激動の時代の本番です。どんな災害(自然災害、人的災害、社会災害、経済災害)が起こるやもしれません。たとえば、国債暴落、ハイパーインフレによる「経済災害」もいつ起きてもおかしくない状況です。でも、私たち一人ひとりにとっては、「健康長寿」と「生涯現役」の二つさえ備えていれば、どんな状況にあっても、生きていけます。

 

あと15年から20年は現役で働きたい、これまで特別な体づくりをしてこなかったけど生涯現役のための基礎体力を付けたい、スポーツジムに通うには時間がない・・・、そんな50代のビジネスパーソンに適ったトレーニング法です。
彼の提唱する内容を、50代後半になった私が、自分のためにアレンジして、「自分流、一日20分、健康トレーニング法」として、考えてみました。私自身、実践したいと思います。
 

この「健康トレーニング法」の基本理念は、次の通りです。
●本来の健康とは、「自分の体が生来持っている機能を十二分に発揮して、生涯現役で働けること、人生を最後まで元気に生きること。体も心も幸せだと感じられる状態のこと」です。
●50歳からの健康トレーニングとは、「体と心を鍛え、どんな状況でも、自分の力で自分の面倒を見られる体づくり」です。

 

この「健康トレーニング法」の四本柱は、「呼吸」、「足腰」、「食事」、「心」です。

 

(1)「腹式呼吸」を実践する

 

朝起きて、太陽の光を浴びながら、「腹式呼吸」を行う。
ポイントは、口から息を「ハー」と吐く。「フー」と吐くよりも、腹の底から空気をたくさん出せます。そして、吸うときは鼻から、腹を膨らませるように。
腹式呼吸を行うと、腹筋という体の中心の筋肉が緩んで、全身がリラックスした状態になります。大腸に刺激を与えられるので、便通もよくなります。
 

その後、トイレで、寝ているときに溜まった老廃物を、気持ちよく出し切る。残さない、残存感を持たない、のが肝心です。
その次に、(2)の「ストレッチ」と「階段の上り」に移行します。

 

ところで、老廃物の排出だけでなく、呼吸でも大事なのは、「吐き切る」ことです。


日常生活で息を吐き切る場面は少ないので、あえて「吐き切る」場面を作る必要があります。
1.日中でも、オフィスの椅子に腰かけて、背筋を伸ばして自然体で太ももに手を置く。
2.そして、息をゆっくり吐きながら上体を倒します。
3.腹の中に溜まっている空気を絞り出していく感じで、ゆっくり吐きだす。
4.吐き切ったと感じたら、鼻で息を吸いながら上体を起こす。
これをワンセットとして、一日3回、所要時間は3分。こうやって呼吸法を日々整えるのです。

 

また、下腹の筋肉を鍛えるのには、腹式呼吸を意識した、「カラオケ」や「読経」、あるいは、古典を声を出して読むのも、素晴らしい。ストレス発散にもなります。

 

【贈る言葉】

 

「人生は一呼吸。オギャーと最初の息を吐いて産まれ、スゥーと最後の息を吸って死ぬ。大切なのは一呼吸の今。過去でもない、これからでもない。今、深く息を吐いて吸ってみる。“底力”が湧いてくる」
(江尻みどり著『自分建立』より)

 

(2)「足腰」のトレーニング

 

朝一番の「腹式呼吸」のあとは、「一日、30秒のストレッチ」です。
股関節やアキレス腱を伸ばす程度のストレッチで十分。これから一日の活動に入る前に、こわばった体の緊張をほぐすのが目的です。
1.足を肩幅に開き、自然体で立つ。
2.肩の力を抜いたまま、腕を胴体から離す。
3.手首を起点にして、ブルブルと手首から先を、できるだけ早く振る。この時、踵をすこし浮かせて上下させ、首を軽く回す。息を吐きながらやると、より効果的です。

 

そして、「健康トレーニング」の根幹である、「一日、15分の階段の上り下り」です。
自分の足で動くことは、健康の基本。「老化は足腰から」始まります。それに、生涯現役を支えるのは、下半身の筋肉です。
足腰を鍛えるのに、手軽で、適度に負荷がかかり、そして運動効果が高いのが、「階段の上り下り」です。背中を伸ばし、下腹を意識しながら、負荷をかけて上り下りすると、脚力だけでなく、腹筋・背筋も鍛えられます。

 

朝起きて、体に溜まった老廃物を排出し、新陳代謝を促す。念押ししますが、出し切ることが肝心です。これが、体本来の自然のサイクルです。自然と、「自然治癒力」の向上、「免疫力」の向上、そして、「本来の健康」につながります。

 

そして、「ストレッチ」と「階段の上り下り」で、じんわりと汗をかく。それからシャワーを浴びて、スカッとしてから、仕事場に出掛けることができれば、ベストです。
 

(3)食事のしかた

 

基本は、お腹が減ったら食べる。減っていないなら、朝食・昼食の時間だからと思って無理して食べない。空腹のときに食事が、一番おいしい。「体が欲しているときに食べる」ということです。

 


人間が本来持っている、「動物本能」や「生存本能」に従う。そうでないと、「動物本能」や「生存本能」が衰退します。私たち現代人は、この二つを蘇らせなければなりません。
空腹状態にして、好物を好きなだけ、おいしそうに食べる。屈託のない、若々しい・・・、そんな姿は、とても健康的です。

 

それに、朝起きたばかりの体は、まだエンジン全開とはほど遠い状態です。そんなところに、消化に手間のかかるベーコンや卵を放り込むのは、体に大変な負担をかけます。消化という活動は、体にとって異物である食べ物を自分の体に取り入れる作業ですから、とても大きなエネルギーを必要とします。
胃腸の消化も一種の運動です。ウォームアップなしに、全力疾走してはいけません。ケガのもとです。胃腸障害を引き起こします。

 

大事なことは、「体が何を欲しているか、自分の体に聞いてみる」ことです。空腹を感じないなら、朝は果物と十分な水分です。食べないほうがいいのです。お腹が減っていたら、消化によいものを適量食べればいいのです。
寝ている間に水分はかなり出ているので、良い水を十分に飲んだほうがいい。

 

(4)心のトレーニング

 

心に余裕を持つ。心に余裕がなくては、いくら体が丈夫でも、健康状態とは言えません。
大事なことは、「気持ちの切り替え」です。そのやり方は、人それぞれ、考案するしかありません。

 

たとえば、一日の中で3分でいいから、何も考えない「空白の時間」を持つ。たとえば、瞑想する時間を持つ。
風呂の中で、できればサウナの中であればベストです、指の爪の周りを何も考えずに、ひたすらゆっくり順番に揉むとか・・・。

 

リラックスしたり、気持ちをスッキリさせて、気持ちの切り替えができると、目の前の仕事に新たな気持ちで集中できるようになります。

 

最も良いのは、人間が「自然のサイクルで生きる」ことです。
人間に最も影響を与えるのは、「昼・夜」のサイクルです。そのため、午前中に「出す」、午後に「入れる」、夜は「休養する」、という循環が、体と心にとって、健康な生活にとって、理に適っているのです。

 

「体も心も幸せと感じられる」のが、理想的な姿です。自然のリズムや循環と同期した、持続可能で、好循環な姿です。そして、「健康長寿、生涯現役」を目指したいものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「社員の健康支援」と「健康会計」2

― 後段 ―

 

●「健康会計」という新しい考え方

 

 経済産業省と厚生労働省は、企業による社員の健康管理情報の開示を求める「健康会計」の制度化を検討しています。

 

 この「健康会計」では、定期健診など健康管理への投資とその効果を定量的に把握できるようにするとともに、優良企業を認定する制度も作ることになっています。企業に社員への予防医療の徹底を促し、上昇し続ける医療費を抑制しようというものです。これは世界でも初めての試みといわれます。

 

 また、「健康会計」では、社員の健康維持のための費用を、将来の病気の発症(=会社のリスク)を抑えるための「投資」と位置づけ、社員の健康増進による経済効果を示し、一般投資家への情報開示にも繋げるということです。

 

 「健康会計」は、企業にとっては

(1)労働生産性の向上

(2)労災リスクの低減

(3)医療費負担の適性化

(4)ステークホルダー(企業の利害関係者)に対する説明責任の充実

(5)社会全体の「健康資本」増大への寄与

などのメリットがあります。

 

 一方、社員にとっては

(1)個人の健康度が向上

(2)業務の生産性が向上

(3)職場に対する満足度が上昇

といったメリットがあります。

 

 しかし、見方を変えれば、「健康会計」という制度を作らなければならないほど、私たち日本人は、世界に冠たる「国民皆保険制度」に安住しているうちに、健康に対して無頓着になってしまったともいえるのです。

 

 この「国民皆保険制度」が実現したのは1961年。患者の窓口負担に加えて、保険料と税金を財源として運営される“共助”と“公助”の仕組みです。保険証1枚でいつでも、どこでも、誰でも、一定割合の低価格で医療機関にかかることが出来るという利便性が、50年経過する間に、逆にあだになって、「負担しても3割で済む」「薬を飲めばいい」「病院へ行けば何とかしてくれる」という安易な気持ちや誤った思い込みが蔓延してしまったと思われます。

 

 一方、“自助”(自主独立、自己責任、自己負担)の精神を重んじるアメリカでは、65歳以上が対象のメディケイドが制度化されてはいますが、全国民をカバーする公的保険はありませんでした。

国民の多くは民間保険に入っていますが、保険料を負担出来ない人たちは無保険者となります。その数は約4600万人といわれ、オバマ大統領の主導で2010年3月に成立した医療保険制度改革法により、今後10年で3200万人が保険に加入出来る見込みのようです。

 

 ところが、アメリカには根強い反対勢力が存在します。医療保険を取り扱う民間保険会社、医師会など医療関係者、製薬会社の3者は、国民皆保険制度より現行制度の方が儲かるので揃って反対です。また、富裕層は大金を払っても今の方が「高度医療」を受けられること、及び、増税と負担が見込まれることで反対です。

 

 上記のように悩ましい状況ではありますが、医療費の高いアメリカでは、富裕層以外の一般ピープルは風邪をひいても簡単に医者にかかるわけにはいかないので、一生懸命に予防せざるを得ない環境の中で生活してきたのも事実です。

 

 「病気になってから安易に医者にかかる日本人」と「病気をしないように予防に努めるアメリカ人」―どちからが健全でしょうか?答えはいうまでもないと思いませんか。

 

 私たち、「3助」(“共助”と“公助”と“自助”)のうちの“自助”が今まで以上に強く求められる時代に生きています。そのため、ますます病気予防の重要性が増します。

 

 体が資本です。「健康こそ人生最大の財産」と言い切っても過言ではないでしょう。「病気を寄せ付けない体づくり」に真剣に取り組まなければなりません。

 

 

 

 

「社員の健康支援」と「健康会計」

― 前段 ―

 

●社員の「健康管理」から「健康支援」への転換

 

 一部の先進的企業では、社員の「健康支援」を人材戦略の中に位置づける動きが生まれています。企業の労働生産性を低下させる「うつ」などの不健康社員(病的な社員)がますます増えているという背景があるからです。現に、厚生労働省は現在の国民医療費34兆円が2025年には約2倍の65兆円になると予測しています。

 

 これまでの企業における社員の健康に対する考え方は、年に1度、人間ドックなどの健康診断の機会を提供し、あとは自分できちんと「健康管理」しなさいというやり方でした。しかし、これでは医療費が減る気配はまったくありません。現在の国民皆保険の本人負担3割を今後は5割負担以上にしていかないと、国の制度そのものが持たないといわれます。しかし、一気に5割負担にするわけにもいきません。

 

 そこで、考え出されたのが2008年4月から実施されている「メタボ健診」です。対象となる4074歳の保険加入者に対してメタボ健診の実施と成果を義務づけます。

さらに国は国民医療費の削減を目的として、企業健保組合に対して、2013年からペナルティとインセンティブ制度を設け、その実効を迫っていく予定です。

 

 今では、企業健保組合(加入者約3千万人)の9割が赤字です。例えば、組合員23万人を抱えるある大手電機メーカーの医療費は、組合員とその家族を含め、年間約1千億円にもなり、そのうち1/4に当たる約250億円が国への「拠出金」です。

 

 企業健保の加入者には65歳以上の高齢者は殆どいませんので、高齢者の医療費を国への拠出金として一部負担する制度となっているのですが、その拠出金が、団塊世代の大量退職と高齢者への参入により、これから加速して増えていきます。

 

 国はますます増える国民医療費のうち、まず現役世代の医療費を大幅削減すべきである(=企業にとっては労働生産性の向上に繋がる)と考え、2013年から企業健保に対して一定基準を満たさなかった場合には10%のペナルティを科し、満たした場合には10%のインセンティブを与える予定です。

 

 このペナルティとインセンティブの上下20%の違いは組合財政を大きく左右します。

そこで、企業健保は医療保険加入者に対して必死にメタボ健診を受診させ、メタボ該当者にはメタボから脱却するよう強く働きかけていくでしょう。その結果、「生活習慣病の入口であるメタボ者が減少し、医療費が削減される」というのが国の目論見です。

 

 さらに将来的には、国は企業健保に対してだけでなく、メタボ健診を受診しない人たちやメタボ者に対しても個別にペナルティを科したり、その人たちが病気になった場合には全額負担を強いるという事態も考えられます。

 

 こうした国の意向を先取りして、ある大手自動車メーカーでは、2008年に約40億円を投じて、病気の予防や健診のための施設を作りました。病院ではなく施設です。

このメーカーは、「健康管理を社員の自己責任に委ねるつもりはない。これからは社員の生活に介入してでも医療費の膨張に厳しく目を光らせる。不健康な社員は不適格社員である」と言明します。

 

 しかし、こうした取り組みはごく一部の大企業に限られており、中小企業にいたっては皆無といっていいでしょう。

 

 

 後段では、「健康会計」という新しい考え方を紹介します。